塾長ブログ

2021.09.13

先日話した、都立高校入試でスピーキングテストが導入されるという件。そこに問題点はないのでしょうか。

先日話した、都立高校入試でスピーキングテストが導入されるという件。そこに問題点はないのでしょうか。

先日お話しましたが、東京都では今年度の次の受験生から、都立高校の入試にスピーキングテストを加える方向で準備を進めているようです。
計画通りであれば、最初のスピーキングテストは来年秋に実施されます。

ご存知だと思いますが、実は大学入試でもスピーキングテストを導入しようという動きがありました。
文科相もギリギリまで実施するとしていましたが、直前になって方向転換、テストの導入を延期しました。
それまで多くの保護者、生徒、学校関係者からスピーキングテストを大学入試に加えることに対する疑問、質問に答えず、日程だけ決めて実施を狙っていましたが、突然の延期に生徒を始め現場は実施よりもかえって混乱しました。
そうでなくても精神的に追い詰められる大学入試なのに、入試制度の改変、コロナ禍、学校の一斉休校で比べ物にならないくらいの不安とストレス、プレッシャーを受けていた受験生。
スピーキングテストの混乱は彼らを輪をかけて苦しめました。
これも全て生徒のことを真剣に考えず、己の思惑を優先する思慮の浅い大人たちによって起こされたことであり、本当に昨年度の受験生には同情します。

そして、今回実施されようとする都立入試におけるスピーキングテストは大丈夫なのでしょうか。
大学入試の経験から考えるならば、生徒や保護者、教育現場からの反対の声が強くなり、その問題点がメディアなどを通して世間に共有されればギリギリの中止もあり得ない話ではないでしょう。

ただ、現状を見る限りそのような世間の動向は表立っておらず、現実的には中止の可能性は少ないと思われます。
これは東京都だけの問題であり、国民レベルで議論されないからと言うのが理由の一つだと思われます。
また、そもそも都立高校の入試でスピーキングテストが導入されるということを知らない人が多いのも理由になるでしょう。
大学入試に比べて圧倒的にニュースなどの話題にはなっていません。
現在の政府はかなり強気な態度をとっているので、世論のよほど強い反対がない限りは中止はなく、スピーキングテストを押し切ると予想されます。

では、実際に実行可能か考えてみましょう。
大学入試と比べると都立高校の入試は当然規模が小さくなります。
大学入試の受験者数が100万人を超えるのに対して、都立高校入試の受験者数は3万~4万人程度です。
規模が小さい分、準備及び実施に必要な人員は少なくて済むでしょうし、機材なども少なくて済むので大学入試よりも簡単と言えるかもしれません。
会場も都内に限られるので、試験会場の確保も比較的容易となりえるでしょう。

しかし、入試という性質上、試験をただやればいいという訳にはいきません。
誰もが試験とその結果を十分妥当と見なせるものにしなくてはなりません。
そう考えてみると、話は変わってきます。

一番の問題点は公平性です。
大学入試でのスピーキングテストの中止の最大の理由が、公平性が十分確保されていると世間が認識していないことでした。
採点はあくまでも採点者の裁量によるもので、同じ解答でも採点者によって点数が分かれます。
同様のことが都立高校入試のスピーキングテストにおいても起こるのではないかと懸念されています。
マークシートのような選択問題などと違って、正誤が明確ではなく採点者の判断で点数が変わってくることは避けられません。
1点、2点で合否が分かれるような重要な試験において、どの採点者に当たるかという運の要素が強いということは、公平性に欠けると考えられますし、多くの保護者、受験生はその点が心配だと思います。

これに対して実施主体であるベネッセは、採点者は徹底したトレーニングを積んでおり、評価も複数の採点者で行うので公平性に問題はないとしています。

ただ、この「徹底したトレーニング」とはどのようなものか、実際にどのように行われているかは不明です。
この採点の拠点はフィリピンにあるそうですが、外部の者に実態はなかなか見えてきません。
誰が採点するのかも具体的には分かりません。
大学入試のスピーキングテストでは、ベネッセは採点にアルバイトを当てることにしていましたが、これが大きな批判を受け、テストの中止につながっています。
果たして、今回のテストでもそれなりの資格のある人材によってなされるのか。
3万人の採点なので相当数の人材が必要と考えられますが、果たして確保できるのでしょうか。
できなければ、当然アルバイトも考えられます。
でも、今回は採点の拠点が海外なので、私たちがそれを知ることは難しいでしょう。
それに、タブレット端末などで録音した音声を拠点に送って採点するわけですが、実施して期日に間に合わないようであれば当然公平性より期限が優先されることは考えられ、一貫して全員が同等の採点を受けるかどうかも疑問です。
プレテストでも採点は行われましたが、本番は規模が断然違うので本当に公平に採点できるのか分かりません。

東京都教育委員会は「公平な採点について確認済み」としているようですが、それは東京都教育委員会が実際に現地へ行って確認したわけでなく、ベネッセを通して「採点の公平性に問題はない」と聞いただけです。

次に問題なのは安全性です。
新型コロナウイルスが蔓延している中、今年の受験シーズンに入学試験は行われました。
しかし、現在のコロナウイルスはその時よりも感染力が高いもの、若者でも感染し重症化するより強力なものとなっています。
コロナ禍が来年どうなっているかは今のところ不明です。
次々と新しい株が生まれ感染の波が収まりません。
もし、現在のような状況で受験生がスピーキングテストを受けるならば感染に対する対策が必要です。

そして、このテストが音声を録音するものであるということを考慮すると、感染予防も特別なものになるでしょう。
普通の試験会場のような環境であれば、声を出せば飛沫が広がり感染の危険性が高くなるでしょう。
個別に仕切られたとしても、受験生が録音するときに録音機器など飛沫が飛ぶでしょうから、徹底した消毒が必要となってきます。
そのような手順でテストを実施するのかよく分かりませんが、かなりの工夫が求められるでしょう。

因みに、これまで行われたプレテストはどうだったかと言うと、クラスを半分に分け、それぞれ15分間、窓が閉められた教室で受験生は一斉に声をあげて録音していたそうです。
感染予防としてマスクの着用はなされたようですが、文科省の衛生管理マニュアルの「感染症対策を講じてもなお感染のリスクが高い学習活動」に相当するそうです。

もう一つ指摘されている問題点は、特定企業の営利のために入試が利用されているのではないかということです。
このスピーキングテストは東京都とベネッセの協働で行われることになっていますが、実際はシステムの構築から実施運営までベネッセが主体となっています。
テストを作るのはベネッセなので、テストで良い点を取るにはベネッセが販売している問題集やテキスト、通信教材などをやった方がいいと考えるのは妥当です。
そうでなるならば、ベネッセはスピーキングテストにおいて他の企業より優位な立場で営利追及、独占ができます。

また、テストを受けるにはベネッセIDが必要で、発行に当たっては個人情報の登録も要求されます。
以前、個人情報流出問題があったベネッセなので、個人情報の登録は拒否したいと思っても、情報提供しなければテスト申込みを承諾しないそうです。
つまり、テストを受けるためにはベネッセに個人情報を出さなければならないのです。

ベネッセは個人情報は年度末までに消去する方針ですが、これらの情報に基づいて販促、営業ができます。
受験生の個人情報は業界にとって大きな価値のあるものなので、ここでも ベネッセの営利のために利用されないか疑問です。

いづれにしても、大学入試もそうですが、今回の教育改革においてベネッセが学校教育に落とす影が非常に大きくなっているのを感じます。
文科省は子供たちの未来を照らす教育を本気で考えるべきであり、民間癒着とまで言えるかどうかは分かりませんが、特定企業の利益のために子供たちの人生を掛けた試験、教育を利用しないでほしいと切に思います。
(本来教育は営利とはかけ離れたものであるべきで、だからこそ公共性の高いものとして存在すべきです。)

学校で「話す」技能をどのように教えるのかという問題もあります。
教室では日本語英語で教えている先生も多く、本当に正しく教えるならば、音声学や社会学、文化など学校の先生のトレーニングも必要です。
でも、おそらくこれらはなされず、生徒によっては十分な教育を受けずに(準備もままならないまま)本番のテストに放り込まれるのでしょう。
一方で、きちんと英語が教えられる先生の下で指導を受けた生徒は当然テストでも有利になります。
ここでも公平性の問題が出てきます。

都立高校入試における「スピーキングテスト実施」に関する問題点を指摘してみました。
他にも問題点があるでしょう。
でも一番の問題は、このスピーキングテストについて世論が盛り上がっていないこと、世間に知られていないことだと思います。
そうでなければチェック機能が働かず、政府の勝手な都合で話が進み、最終的に生徒たちや社会的弱者が大きな損害を被ることになりかねません。

良し悪しはそれぞれの考えなのでいいです。
スピーキングテストを行うこと自体は別に悪いことではないと個人的に思います。
問題はその方法です(今の教育改革を見ると目的はいいのですが、実践手段が疑問であることが多い)。
従って大事なのは、実際にスピーキングテストが行われる前に、他人任せにしないでみんなで議論し、どうすれば受験生にとって最も有益かを考えることだと思います。

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