塾長ブログ

2023年10月

2023.10.16

恒例の『国語に関する世論調査』の結果が発表されました(その一)

 

恒例の『国語に関する世論調査』の結果が発表されました(その一)
毎年秋になると、文化庁による『国語に関する世論調査』の結果が発表されます。
今年も9月29日に出されました。
その内容を見ると、今の日本人の言葉に対する考え方が分かります。
今回も興味深い点がいくつかありましたので、共有してみたいと思います。

国語とコミュニケーション

1.言葉の使い方に対する意識
最初に、日本語に対する考え方や姿勢に関する調査結果です。
今回は言葉の使用に「気を使っているか」という質問がなされていました。
その回答は、全体の8割以上が言葉に気を使っているとしています。
この傾向はどの年代でも同様で、全て8割前後となっています。
これまでも同じアンケートが行われましたが、今回はどの時よりも高くなっています。

更に掘り下げて、「どのように気を使っているか」「見聞きした言葉が間違いや勘違いだと思ったときの好ましい反応」「言葉の意味や使い方などが分からないとき、調べたり確かめたりするか」「生活に必要な情報の入手先」「言葉遣いに大きな影響を与えると思う情報媒体」「日本語を大切にしているか」と調査しています。

「どのように気を使っているか」では、自分が公共の場で相応しい言葉使いができているか、正しい敬語が言えているか、異なる意見に対して感情的にならないでいられるかなど、コミュニケーション上の問題に気を使っているようです。
特に注目すべきは「差別や嫌がらせ(ハラスメント)と受け取られかねない発言を、ついしてしまう」というのが62.7%で、全体でも第三位に入っています。これは「パワハラ」「モラハラ」や「セクハラ」という言葉が普及し、人々がこの問題に対して敏感になっているということではないでしょうか。
2.見聞きした言葉が間違いや勘違いだと思ったときの好ましい反応
自分が見聞きした言葉が正しくないのではと感じたときについての結果が出ています。
その時のふさわしい反応としては、「本当に間違いや勘違いなのか調べる」と答えて人が一番多く、全体の55.3%となっています。
次いで、「ばかにしたり見下したりしない」「自分自身の言葉の使い方の参考にする」「配慮なく指摘しない」と続いています。

この結果から、多くの人は先ず自分の考えが間違っていないか確認すべきと考えていることが分かります。
そして、「ばかにしたり見下したりしない」「配慮なく指摘しない」という回答も多いことから、日本人の言葉に対する慎重な姿勢、間違っている相手への配慮の強さが感じられます。

興味深いのは、「本当に間違いや勘違いなのか調べる」との回答は年齢が上がるほど顕著に下がっているので、これは年齢が上がるほど自分の言葉に対する知識に自信があるのか、それとも調べるのが面倒なだけなのか(逆に言うと、若い世代は手軽に調べる手段を持っているということ?)気になります。
3.言葉の意味や使い方などが分からないとき、調べたり確かめたりするか
前の質問に関連して、今度は言葉の調べ方についての報告がありました。
16~19歳のグループが一番多く調べており、それ以降は年齢が上がるごとに調べる割合が下がっていくという傾向が見られます。
高齢になるほど言葉に対する知識と経験が増え、調べる機会の減少につながると思えなくもないですが、新語が次から次への誕生する現代の状況を考慮すると、年代を問わず言葉について調べる必要はあると考えられます。
そうなると言葉を調べるツールへのアクセス状況が、この傾向を生み出しているのではないかと想像できます。

現に、「インターネットの検索サイトなどで検索する」が全体の割を超えて最も多くなっているのですが、年齢別に見ると、60代を過ぎるとその割合が急に減り、70代以上では3割以下まで落ち込みます。
そして、これと全く逆の傾向が「紙の辞書を引く」に表れています。
スマートフォンが広く普及している若い世代では、いつでもどこでもツールへのアクセスが容易で気軽に言葉を調べることができるのに対し、高齢の世代ではスマートフォンより紙の辞書に依存しているため、調べるのに手間がかかり、このような結果になったと考えます。
推測の域を出ないのですが、高齢者にとってニューテクノロジーの壁が想像以上に高いのではと感じました。
これは非常に興味深い点です。
4.生活に必要な情報の入手先・言葉遣いに大きな影響を与えると思う情報媒体
続いて情報収集の手段についての調査報告がなされていました。
もっとも多かったのが「テレビ」で、約75%となっていました。
次いで「スマートフォン・携帯電話」で約70%、そして、「新聞」が約45%でした。
過去の調査結果と比較すると、「テレビ」安定して常に最も多い情報入手先でした。
しかし、近年「スマートフォン・携帯電話」が急速に伸びているのに対し、「新聞」を始め「雑誌」「ちらし・ビラ・広告」が著しく減少しています。
ここでも人々の紙媒体離れが伺われます。
そして、この傾向は年代別に見るとより一層はっきりしてきます。
「新聞」「雑誌」「ちらし・ビラ・広告」は年代が下がれば下がるほど、情報を手に入れる手段としては活用されなくなっています。
同様のことは紙媒体でない「テレビ」や「ラジオ」でも起こっています。
そして、真逆のことが「スマートフォン・携帯電話」で起こっており、若い世代はアクセスが可能であれば、「スマートフォン・携帯電話」を利用しがちだということが分かります。
こうなると「テレビ」「新聞」などの古いメディアが「スマートフォン・携帯電話」の新しいメディアへと置き換わっていることが示唆され、しかも、それが若い世代を中心に急速に広がっているのです。
他方、60代、70代では「スマートフォン・携帯電話」の使用が大きく減っており、この世代が新技術に頼らず(適応できず?)、昔ながらの方法で情報を得ていることが考えられます。

「言葉遣いに大きな影響を与えると思う情報媒体」に関する調査でも同じような傾向が見られます。
最も影響を与えているメディアとしては、どの世代でも「テレビ」一番多く、全体の9割迫る勢いです。
メディア自体の影響力もさることながら、やはりアナウンサーの話す日本語が国民にとっての手本という考え方が根強いものではないかと想像します。
過去の調査との比較においては、「スマートフォン・携帯電話」が急速に伸びているのが目立ちます。
「スマートフォン・携帯電話」が社会に広く普及するにつれ、その影響力が増すのは十分理解できます。
そして、個人の各メディアとの接触時間においても、「スマートフォン・携帯電話」は簡単に持ち運びができるという利便性があるので、人々はより長く影響を受けると考えられます。
また、世代間の各メディアの影響力の比較についても、「生活に必要な情報の入手先」と同じ結果が出ているので、同様の理由がここにも関わっていると推測できます。
5. 日本語を大切にしているか
最後に「 日本語を大切にしているか」という質問がありましたので、触れてみたいと思います。
調査結果は約6割が「大切にしている」と答えました。
これは多いのか少ないのか意見が別れるところでしょう。
言語が人々のアイデンティティに大きく関わると考えるならば、この数字は決して高くありません。
しかし、人々が日本語に危機感を持たずに生活ができるくらい安心していることの表れと考えるならば、全く逆の結論を導き出すことも可能です。
ここは詳細な追調査がほしいところです。
ただ、日本人は日常生活においては、日本語に対してかなり無意識的であることは言えるかも知れません(あって当たり前)。
過去の調査結果と比較しても、全体的にこの傾向に明確な変化は認められません。

「大切にしている」と回答した人たちに、その理由を尋ねたところ、次のような結果になりました。
「日本語によって、ものを考えたり感じたり善悪の判断をしたりしていると思うから」を選んだ人が一番多く、全体の53%となっています。
次いで「日本語は日本の文化そのものであり、文化全体を支えるものだから」が45.0%、「日本語は自分が日本人であるための根幹であるから」が42.9%、「日本語がないと日本人同士の意思疎通ができないから」が40.8%と、それぞれ4割台となっています。
「言葉と思考が連動しているので、言葉を大切にすべき」というのは私も日頃から強く感じています。
言葉が豊かであれば、細かい表現も可能であり、それはそのまま豊かな思考力と表現力につながります。
だからこそ、言葉を重視したいと考えます。
続く三つの回答はどれも日本人のアイデンティティに関わることと考えられます。
ただ、普段の日本人は自身のアイデンティティをそこまで意識して生活してはいないと思います。
「質問されたから答えた、意識した」という感が否めません。



毎年楽しみにしている報告で、今回も興味深い結果が見られたと思います。
本日は日本人の日本語との関わりについて議論してみました。
日本人の言葉に対する慎重な姿勢、対話における相手への配慮、言葉を調べるツールとその影響力など、調査結果から様々な考察ができるのでとても面白いです。

しかし、『国語に関する世論調査』はこれだけでなく、現代人の日本語運用についても言及しています。
ここも毎年驚かされることが多いのですが、この点は後日またお話します。
皆さん、慣用句や日本語の言葉遣いを間違えていませんか。
次回をお楽しみに。

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