塾長ブログ

2024.06.30

学校で習っていないことを勉強で使ってはいけないのか

 勉強を教えていると、生徒が「それ、学校で習っていない」ということがあります。
「学校で習っていないことだから知らなくてもいい、できなくてもいい」という意味でしょうか。
それとも「学校で習っていないから使ってはいけない」ということでしょうか。

また、ときどきネット上などで、「子どもが学校で習っていない漢字を書いたからバツになった」「掛け算を習っていないけど、掛け算で計算したら間違いにされた」という話題を目にすることもあります。
いずれは覚えなければならないことだし別に間違いでもないのに、実際にテストなどでは使っただけで×にされてしまう(また、この×にされるときの指導のやり方も問題がある場合が多いのですが)。

習っていない漢字であれば自分の名前すらひらがなにしないといけないということさえあるようで、そうならば私などは小学校在籍中は自分の名前を書くとき一文字しか漢字で書いてはいけないという話になります。
笑えます(笑えない?)。

どうやら「学校で習っていないことは勉強で使ってはいけない」という暗黙のルールがあるようで、これに違和感を覚える人は少なくないのではないでしょうか。
今回は「学校で習っていないことは勉強で使ってはいけない」ということに関して考えてみたいと思います。

「学校で習っていないことは勉強で使ってはいけない」理由

どうしてこのようなルールが学校教育で適用されるのでしょうか。
せっかく独自に学んでもそれが使えないとは、何とも理不尽な気もしますが、その理由を考えてみましょう。
調べてみると、次のような現場からの声がよく聞かれます。

1.学校でないと正しく学ばず間違って覚えてしまう
2.知らない生徒に劣等感を与えてしまう
3.未習事項を独学し学んだ生徒が褒められると、歪んだ優越感を感じ授業に無関心になる
4.他の生徒を見下す
5.足並みを揃えた授業に支障をきたす
6.他の知らない生徒が困る

他にもたくさんあると思いますが、おおよそこのようなところでしょうか。
どれも理解できなくもないですが、正当化できるとも思えません。
1.は学校の権威主義のように思えますし、間違っていれば気づいた時点で正せばいいだけです。
今はメディアやツールも発達し、独学もかなり可能になっています。
知的好奇心旺盛の生徒が自ら学びたい気持ちをわざわざ削ぐ必要はないのではないでしょうか。
むしろ、頭が柔らかく多くのことを吸収できる生徒たちの成長のチャンスをざわざわ制限しなくてもいいと思います。
2.3.4.の劣等感や優越感、無関心や見下しは学びの問題というより指導の問題と考えられます。
クラスの担任や学校がうまく運営すれいいことで、それができないのは生徒の問題ではなく学校の問題です。
同様に5.も学校の都合であって、生徒一人ひとりの人格や個性を軽視しているように感じられます。
6.に関しては、むしろそれを機会に周囲の生徒にも学びの輪を広げた方がいいのではないかと思います。

これらの全ては周囲が気をつければ済む問題で、生徒の学びを制限する理由にはならないように思えます。
むしろ、せっかく旺盛な知的好奇心を制限し、勉強に興味関心を失い心が離れてしまうことの方が教育や子育てにおいて大きな問題ではないでしょうか。
教育現場から活気が失われるのではないかと心配になります。
可能性にあふれる子どもたちの才能を失わせているかも知れないという現実は、個人にとっても、また国全体にとっても大きな損失であります。

学習指導要領では

上記の理由は現場でこのルールを適用させている先生方の個人的見解なので、実は指導においても先生方によっても学校によっても大きな振れ幅があります。
未学習のことを勉強で使うことに関して寛大だった先生が後で学校から怒られたり、学年が変わって担任が変わるとそれまでダメだと言われたことがよくなったりということはよくあります。
その度に生徒たちは混乱し、時には悔しい思いもします。

では、学校教育の根幹である学習指導要領ではどのように扱っているのでしょうか。
学習指導要領の中には明確に「学校で習っていないから使ってはいけない」ということは書かれていません。
必要であれば適切な配慮を加えればいいとあります。

にもかかわらず現場でこのような禁止がまかり通るのは、先生方の学習指導要領に対する理解が十分に至っていないためと思われます。
こうなる理由としては、学習指導要領自体も分かりにくく問題ですが、学習指導要領が更新されるたびに逐一読み返している先生はほぼ皆無であり、改定の要点を伝えられるだけなっていることが挙げられます。
そして、慣習的にこれまで先輩の先生方のやり方を踏襲して、批判的に見直すことがない、できないのも原因でしょう。

当の生徒たちの対応は

このような教育の現状に対して当事者である生徒たちは、変だと感じつつも「先生が言うことだから仕方ない」と先生に合わせていることがほとんどです。
納得はしていなくても弱い立場にいる自分たちは従うしかないとあきらめている感じにさえ思えます(これはこれで個人的には大きな問題と思うのですが)。
むしろ、その言葉を真正直に捉えて、「学校の授業でやったこと以外を勉強してはいけない」とまで頑なに考えている生徒もいます。

塾でも知恵やコツとして学校で教えていないことを教えようとすると、「それは習っていないから使ってはダメと先生に言われる」と言って、せっかくの学びが広がらなくなることもあります。

このことが特に問題になる例が中学受験です。
中学受験では学校の指導に先駆けて勉強しないと入試に間に合いません。
だから、受験生たちは学校が教えるより先に多くのことを勉強し、加えて学校では詳しく教えていない特殊算のようなことまで勉強します。
しかし、彼らはせっかく自分が身に付けたことを学校では隠さなくてはいけないのです。
二重の勉強体系に心労も計り知れないだろうし、先ほどとは逆の意味での「歪んだ優越感」が生まれるのではと懸念もします。

「学校で習っていないことは勉強で使ってはいけない」は妥当?

「学校で習っていないことは勉強で使ってはいけない」の背景には日本の古くから息づく画一的教育があるように思われます。
これにより一定水準の人材を大量に排出することに成功した日本の公教育は、戦後の復興と発展に大きく貢献しました。
しかし、時代が変わり世の中の仕組みも変わった現在においては、この「できない生徒を作らないができる生徒も作らない」教育方法が適合しなくなってきたと言われて久しいです。
そうして、教育においても様々な点が改訂される中、「学校で習っていないことは勉強で使ってはいけない」というルールはいまだに根強く慣習的に残っています。
でも、このルールは学校運営側の都合による部分が大きく、生徒一人ひとりのためになっているかと言えば、そう言い難いのが現実でしょう。

せっかく生徒が自主的に学んでその成果を発揮しても、テストなどで「何これ、こんなことは教えていません」と否定されれば、勉強への意欲がなくなるのは想像に難しくありません(×の生徒に与えるインパクトは相当なものです)。
その結果、このルールが想定している以上に多くの負の影響が生徒に与えられるなら、やはり見直しは必至でしょう。
そもそもこのルールが想定している課題は、学校運営側が配慮すれば解決するものばかりですから、わざわざ禁止するほどのことではないと考えます。

日常においても、「一袋に5個のアメを入れて25人分用意しなくてはならない」というとき、5を25回足して必要数求めることはしないでしょう。
普通掛け算をして求めます。
むしろ足し算を使って答えを出そうとする方が不適切で不自然です。
でも、テストでは×になって、25回足せと求められる。
漢字も同じで、普段の生活の中で「図しょかん」とか「よし田さん」などと書かれているのを見ることはまずないでしょう。
存在しない「図しょかん」を〇にするなら、いずれ習うのだし現実に存在する「図書館」の方をむしろ〇にしてあげた方が日常で役に立つのでいいとも考えられます。
勉強の「適切さ」ということを考慮しても未習の内容を使った方が妥当ならば、わざわざ学習に制限を設けず生徒たちに教えてもいいのではないでしょうか。
こういう意味においても、「学校で習っていないことは勉強で使ってはいけない」というルールの妥当性は疑問と考えます。



以上、「学校で習っていないことは勉強で使ってはいけない」という学校での慣習について考察してみました。
いろいろ思い当たることはあるでしょうが、個性と多様性を重視する現代において、このルールは時代遅れの感があるのは否めないでしょう。
その妥当性も疑問ですし、このルールによってもたらされる生徒へのデメリットは見逃せません。
個々の生徒の成長を目指す教育であれば、それぞれの状況に合わせて柔軟に対応していくのがやはり正当なのではないでしょうか。
特に成長による差の激しい小学生では、上に出ても下に引っ込んでもいけない右にならえの教育は生徒にとって息苦しく、向上心を妨げるものになるのではと心配しています。

せっかく生徒が学びたいというのであれば、その努力と成果は認めてあげるべきです。
何の文脈もない画一的な線で切り捨てるのは良くないでしょう。
自分から進んで身に付けた学びならば、それを尊重すべきです。
そうして生徒たちの選択肢と可能性を増やしてあげれば、彼らの将来は大きく開けるだろうし、それが教育の目的の一つでもあると思います。

葛西TKKアカデミーでは、生徒一人ひとりをしっかり見つめる個別指導を通して、縛られることのない自由な学びを提供したいと考えています。

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