塾長ブログ
2021.09.28
学校が生徒に配布したタブレット端末によるいじめで小6の生徒が自殺した問題について考えます。
二週間ほど前のニュースになりますが、学校の配布したタブレット端末を使っていじめが起こり、それが原因で小6の女子が自殺したというものがありました。
折しも、コロナ禍による休校などの事態に備えるため、今年度から児童生徒全員に一人一端末配布を宣言し、形の上では宣言を達成した(ただ配るという意味では実現していますが、有効に使いこなし教育に生かされているかどうかは別の問題です)ときでのニュースです。
タブレット端末を全員が持ち、オンライン授業が可能となれば何が起きても勉強を滞らせることがなくなると高をくくっていた矢先のニュースに、文科省も慌てて調査を開始すると明言しました。
この事件は、今回のタブレット端末配布よりもずっと前に起きたこと(去年の11月)であり、直接の関係はないという点に注意してください。
しかし、自殺が起きた町田の小学校はICT先進校として名をはせていた学校です。
他校より先んじた学校でICTを使ったいじめによる自殺が起きたということは、一人一端末を終えた今、このような事件はどの学校にも起こり得ると考えなくてはなりません。
従って、他人事ではなく自分のこととして、学校関係者は考えなくてはなりません。
そこで今回議論するわけですが、この件に関して私は教育のICT化の問題といじめの問題とに区別して考える必要があると思います。
先ずは教育のICT化について。
文科省はこれまで教育のIT化を急ぎましたが、学校の先生方はこの分野の専門家ではなく、技術的にも知識的にも長けている訳ではありません。
現場で使う指導者の訓練を十分に積み、ある程度のスキルを獲得してから実践に移すべきですが、文科省はタブレット端末の配布を急ぐあまり、それをやってきませんでした(十分な準備もせずに新しい技術や教授法を導入して失敗するというのはこれまでも頻繁にあるパターンですが)。
半ば素人のような先生方がいきなり実践を求められてもうまくいくはずはなく、その利用にいくつかの穴があってもおかしくありません。
これはICT先進校でも同じで、今回の事件もICTを軽く見過ぎた学校の運用に問題がありました。
学校の裏アカウントなど、SNSを通したいじめというのは以前から問題になっていました。
昔と違い、IDとパスワードを持つメンバーしかアクセスできないSNSというツールはいじめを外部から見つけにくくしました。
時には当人が知らないうちに、メンバー内での悪口などが広がり、本人が理由も知らないまま仲間外れにされたり、気づかないうちに評判を落とされたりするなどの形で現実世界に現れることもあります。
また、同じメンバーシップを持つ仲間の間でも、一人の人物への集中的ないじめが起きることもあります。
このようにSNSは便利な道具ではあるのですが、扱い方によっては子供たちの心を傷つける凶器にもなるのです。
スマホやiPadは家庭によって持つ持たないに分かれていましたが、学校教育のICT化は全ての生徒にこの凶器へのアクセスを可能にするのだという認識が事件の起きた小学校では足りなかったようです。
そして、この点が今回の自殺の大きな根本的原因の一つとなりました。
一般的にICTなどを利用する際は他の人が不正にアクセスできないように、IDとパスワードを設定します。
そして、これらは高度な個人情報として厳重に管理されなければなりません。
しかしこの学校では、IDは組番号+タブレット端末の番号、パスワードは全員同じという状況だったようです。
これでは簡単に他人の端末にアクセスできます。
実際にこの事件でも、いじめをした生徒が他の生徒になりすましをして、この児童に誹謗中傷を投げかけていたようです。
しかも、投稿した内容が発覚するのを恐れたのか、何者かがログインしてコメントが削除されていたそうです。
このIDとパスワードの問題はITを扱うものなら基礎中の基礎であり、学校の管理はお粗末であったというしかないでしょう。
では、この問題は未然に防ぐことができなかったのでしょうか。
いじめ自体が防げるかというと難しい問題ですが、少なくとも学校のタブレット端末を使ったSNSによるいじめは防げたと思います。
生徒や児童が持つスマホやタブレット端末からSNSを通したいじめというのは既に社会的にも認識されています。
学校関係者なら当然認識してなくてはなりません。
もしそうでないのならば、この学校のいじめ対策は不十分です。
子供たちは最初ゲーム感覚で個の生徒に対するいじめをしていたようです(いじめた本人はいじめではなく軽いおふざけと考えたいたようです)。
しかし、それが一人の同級生を死に至らしめた。
いじめに対する教育の問題でもありますが、もっと現実に起きているインターネットやSNSで自殺者が出たニュースや人生を台無しにしたニュースを取り上げるなどして、子供たちに自分たちの使っているツールが便利なだけでなく、恐ろしい凶器にもなることを理解させなくてはなりません。
また、子供たちは大人たちが思っている以上にこのような新しい道具を使いこなしてしまうので、学校の先生方の上をいくような使い方をすることも覚えておく必要があるでしょう(例えば、授業中にこっそりチャットしたり)。
今回はこの事件を教育のICT化の観点から考えてみました。
教育のITC化はこれまでの日本の教育にはないことなので、試行錯誤の面は否めないでしょう。
しかし、今回の事件に関して言えば、ICT先進校にも関わらず、ICTに対する認識が甘かったと言わざるを得ません。
ICTが学校に急速に普及し、全ての生徒児童がタブレット端末を手にしています。
しかし、その使用に関しては明確なルール作りが進んでおらず、このような負の面に対する教育も進んでいません。
この非常に危うい状況をいち早く改善し、誰もがICTによって恩恵のある教育が受けられるように、教育関係者は本気で取り組まなければならないと考えます。
この事件をいじめの問題として捉えた議論はまた後日致します。