塾長ブログ
2021.06.13
書籍紹介『悪魔の辞典』『ロマンスの辞典』『言の葉連想辞典』日本語の持つ奥深さに触れ、その巧みさに感動する遊泳社の辞典シリーズ。
以前、ユニークな辞典として遊泳社の『名前のないことば辞典』をご紹介しました。
全く辞書らしくないけど、言葉の持つ新たな一面を見せてくれる本でした。
単に「知らない言葉を知る」という実用面だけの辞典ではなく、言葉の地平線を広げてくれると同時に、そのユニークなアプローチで微笑ましく思えたり、時には感動すら与えてくれました。
今回は同じく遊泳社が出版する他の辞典三冊をご紹介します。
どれもそれぞれに面白い辞典でちょっと変わっていますが、一度は手に取って見られることをお勧めします。
『悪魔の辞典』
元々は1911年にアメリカで出版されたアンブローズ・ビアスという人の書いた『悪魔の辞典』が土台となっています。
一般的な辞典のように言葉を客観的に中立的に描写説明するのではなく、悪魔というちょっと変わった(偏った)視点で言葉を掘り下げていきます。
すると、これまで特に何も思わなかった言葉に新しい味が加わり、全く違った意味になります。
悪魔というひねくれものの解釈により、言葉がこれまでの定型的な定義から解放され、より自由により豊かになって読み手の前に現れます。
そこには皮肉と同時にユーモアがあり、知らなかった言葉に限らず、馴染みのある言葉でさえ新鮮な魅力を伴って私たちの心を揺さぶります。
アンブローズ・ビアスの本を基に作者が現代社会などが持つ闇の部分に軸を置いて言葉が選定され、ユーモラスなイラストと共に人間や社会の持つ皮肉や滑稽さ、問題点を指摘しています。
「かき氷」…「水を凍らせて削ったものにシロップを掛けただけのを数百円で販売する夏祭り限定の錬金術。」
「後悔」…「恋人の携帯電話、もしくは機を織る鶴の部屋を覗いたあとに、湧き上がる気持ち。」
「食べ放題」…「定額を支払い時間とノルマに追われながら食事を摂る胃袋への拷問。」
この本を通して普通とは違う新しい定義にクスッと笑えるといいですし、更に、「自分ならこう解釈する」と独自の言葉遊びをしてもらえれば、この本は最高に面白くなると思います。
『ロマンスの辞典』
こちらも『悪魔の辞典』と同様に、ただ言葉の定義だけを並べた一般の辞典とは違い、「ロマンス」というユニークな切り口で言葉を再確認させてくれる辞典になっています。
そもそも「ロマンス」とは何でしょうか。
単純な夢や憧れではなく、そこには恋愛という感情が大きく関わっています。
しかも、「恋愛」という言葉自体があいまいでつかみにくく、すこぶる個人的なものにも関わらず、全ての人の心にしっかりと根付いている気持ち。
だから、同じ言葉でも「ロマンス」という視点で見つめ直した場合、その言葉の持つ意味は一人ひとり大きく異なるはずです。
でも、だからこそ個人個人が異なる定義を持ち寄ることで、共通認識している部分とそうでない部分を理解し、自分が持ち合わせていなかった新たな視点に気づくことで、その人の言葉は大きく広がります。
「色男」…「出会いと別れを繰り返し、女性の頬を涙で濡らして駆け抜ける通り雨。」
「嘘」…「優しさという絵の具で描いた名画の贋作。」
「海」…「地球上の大部分を占める水域。君への想いの次に、広く深い。」
「初恋」…「人生という書物において、誰もが栞を挟んだままのページ。」
「ロマンス」で考えるからこそ時にはキザっぽく、でも、だからこそ笑える。
そして、巧みな言葉の言い回しにはキュンとくる。
本当に恋に落ちたような甘い気持にもさせてくれる、非常にワクワクドキドキな一冊です。
『言の葉連想辞典』
今度の辞典は前述の二冊とは大きく違っています。
この本は漢字一文字で表されたテーマを基に、それに関連する言葉をズラッと並べてあります。
日常ではあまり使わないような言葉ばかりが並んでいるので、いつもと違う言葉の言い回しをしたいときに役立ちます。
このように言葉を調べるだけでなく、テーマごとに書かれている連想された言葉から、新しく自分の語彙を増やすことができます。
どの言葉も気が利いていて、「なるほどこんな風に言えるのか」「この言葉が使いこなせれば一目置かれるな」と思えるものばかりです。
例えば、「夏」というテーマであれば、そこから連想される言葉として次のようなものがあげられています。
「片陰」「空蝉」「熱帯夜」「逃げ水」「打ち水」「草いきれ」「夏掛け」「夏枯れ」
どうですか、ご存知でない言葉もあったのではないでしょうか。
そして、どれも実際に使えれば格好よくないですか。
語彙を増やすことで、同じものでもニュアンスが異なり表現の幅が広がると同時に、自分の想いをより正確に相手に伝えることができます。
言葉の豊かさは、言葉を使って行われる心の中の動きと密接に関係し、これまで以上に心を自由にしてくれます。
皆さんもこの時点を通じて普段の言葉を豊かにし、心豊かな日常が送れるようにしてみてはいかがでしょうか。
前回の『名前のないことば辞典』に引き続き、遊泳社が出している面白い辞書を三冊、ご紹介しました。
言葉というのは長い歴史の中で培われてきたので、不思議な力があります。
言葉そのものも学問として人間の知的好奇心をくすぐりますが、言葉が豊かになることで自分の思考の地平を押し広げ、心も広く豊かにしてくれるという特性もあります。
これらの辞書は正にこれまでの自分の殻を突き破り、人も周り大きくなった自分を見せてくれるでしょう。
「学ぶ」ということが勉強ならば、そのきっかけは学校のテストや授業にばかりこだわる必要はありません。
「おもしろそうだな」と思えばどのような形でもいいから探求してみましょう。
そこには知識の増大と共に、喜びや心の安寧、豊かさがあります。
遊泳社が出版している本はどれも興味深いものばかりです。
皆さんもガチガチの勉強ばかりでは気持ちが萎えるでしょう。
今日紹介したものも含め、人の興味や関心を引き付けるような変わった本を通して学べば、勉強もより楽しく効果的になるのではないでしょうか。